身近な香気成分であるピラジン類は、食品に好ましい香りを与えます。加熱した加工食品に広く存在することから、非酵素的に産生すると考えられてきました。薬食生命科学総合学府食品栄養科学専攻博士後期課程3年で日本学術振興会特別研究員の本山智晴さんらは、アーモンド様香気を持つ「3-エチル-2,5-ジメチルピラジン」が、アミノ酸から生合成されることを発見しました。本反応は、温和な条件下で進行するため、環境にやさしい新しいピラジン合成法となる可能性があります。
ピラジン類はコーヒー、ほうじ茶、鰹節などの加工食品に加え、チョコレート、焼き肉、納豆など、食品の好ましい香りに寄与します(図1)。加熱した食品に広く存在し、アミノ酸などのアミノ化合物と糖から非酵素的に産生されます。また、ピラジン類は、香料のみならず抗インフルエンザ薬や抗結核薬などの原料としても有用で、血液の流動性を改善するなどの機能も報告されています。近年、このピラジン類が、細菌の細胞間コミュニケーション(情報伝達)や、動物の行動を調節するフェロモンとしての機能も持つことが報告され、生合成経路(酵素が関与する合成経路)の存在が示唆されていました。
ピラジン類はコーヒー、ほうじ茶、鰹節などの加工食品に加え、チョコレート、焼き肉、納豆など、食品の好ましい香りに寄与します(図1)。加熱した食品に広く存在し、アミノ酸などのアミノ化合物と糖から非酵素的に産生されます。また、ピラジン類は、香料のみならず抗インフルエンザ薬や抗結核薬などの原料としても有用で、血液の流動性を改善するなどの機能も報告されています。近年、このピラジン類が、細菌の細胞間コミュニケーション(情報伝達)や、動物の行動を調節するフェロモンとしての機能も持つことが報告され、生合成経路(酵素が関与する合成経路)の存在が示唆されていました。
図1 ピラジン類の好ましい香り
本山智晴さん、伊藤創平准教授(食品蛋白質工学研究室)、中野祥吾准教授(食品生命情報科学研究室)の研究グループは、「L-スレオニン脱水素酵素(TDH)」および「2-アミノ-3-ケトブチル酸CoAリガーゼ(KBL)」という二つの酵素によって、アミノ酸の1種である「L-スレオニン(L-Thr)」から、「3-エチル-2,5-ジメチルピラジン(EDMP)」が合成されることを発見しました。EDMPは、焼き菓子、アイスクリーム、清涼飲料、肉製品など、様々な加工食品の香りとして添加されている、アーモンド様の香気物質です。
TDHとKBLは、通常L-Thrからアミノ酸の1種であるグリシンを生合成しています(図2)。しかし、補酵素A(CoA)の濃度が低下すると、KBLが2-アミノ-3-ケトブチル酸CoAリガーゼとして機能しなくなり、「2-アミノ-3-ケトブチル酸(AKB)」が蓄積します。不安定なAKBは、アミノアセトンに分解します。また、二機能性のKBLは、「L-スレオニンアルドラーゼ (TA)」 としてL-Thrに作用し、アセトアルデヒドを生成します。そして、アミノアセトンとアセトアルデヒドが縮合し、EDMPが産生します(図2)。この新しい合成経路は、30度以下の常温の水中で効率的に進行する事がわかりました。水分含量の少ない食品を加熱することにより生じる既知のピラジン合成経路とは対照的であり、生物がピラジン類の産生を酵素機能により制御する可能性が示唆されました。
TDHとKBLは、通常L-Thrからアミノ酸の1種であるグリシンを生合成しています(図2)。しかし、補酵素A(CoA)の濃度が低下すると、KBLが2-アミノ-3-ケトブチル酸CoAリガーゼとして機能しなくなり、「2-アミノ-3-ケトブチル酸(AKB)」が蓄積します。不安定なAKBは、アミノアセトンに分解します。また、二機能性のKBLは、「L-スレオニンアルドラーゼ (TA)」 としてL-Thrに作用し、アセトアルデヒドを生成します。そして、アミノアセトンとアセトアルデヒドが縮合し、EDMPが産生します(図2)。この新しい合成経路は、30度以下の常温の水中で効率的に進行する事がわかりました。水分含量の少ない食品を加熱することにより生じる既知のピラジン合成経路とは対照的であり、生物がピラジン類の産生を酵素機能により制御する可能性が示唆されました。
図2 KBLの二機能性と、協働的酵素?化学反応によるEDMPの生合成経路
また、本反応を用いて、多様なピラジンが合成できる事も証明しました (図3)。加工食品中にある多様なピラジン化合物、生物が利用しているピラジンは、このような反応経路で合成されているのかもしれません。また、本反応は、温和な条件下で進行するため、環境にやさしい新しいピラジン合成法となる可能性があります。
図3 合成が確認されたアルキルピラジン
本研究成果は、Springer Nature社の新たなオープンアクセス国際化学雑誌「Communications Chemistry」電子版に2021年7月16日付けで掲載されました。
<掲載された論文>
Chemoenzymatic synthesis of 3-ethyl-2,5-dimethylpyrazine by L-threonine 3-dehydrogenase and 2-amino-3-ketobutyrate CoA ligase/L-threonine aldolase
Tomoharu Motoyama, Shogo Nakano, Fumihito Hasebe, Ryo Miyata, Shigenori Kumazawa, Noriyuki Miyoshi and Sohei Ito
関連リンク: Communications Chemistry
https://www.nature.com/articles/s42004-021-00545-8
DOI: 10.1038/s42004-021-00545-8 (https://doi.org/10.1038/s42004-021-00545-8)
<共同研究メンバー>
薬食生命科学総合学府食品栄養科学専攻博士後期課程 本山智晴特別研究員、宮田椋特別研究員、食品栄養科学部 中野祥吾准教授、長谷部文人助教(現在: 福井県立大学)、熊澤茂則教授、三好規之准教授、伊藤創平准教授
<掲載された論文>
Chemoenzymatic synthesis of 3-ethyl-2,5-dimethylpyrazine by L-threonine 3-dehydrogenase and 2-amino-3-ketobutyrate CoA ligase/L-threonine aldolase
Tomoharu Motoyama, Shogo Nakano, Fumihito Hasebe, Ryo Miyata, Shigenori Kumazawa, Noriyuki Miyoshi and Sohei Ito
関連リンク: Communications Chemistry
https://www.nature.com/articles/s42004-021-00545-8
DOI: 10.1038/s42004-021-00545-8 (https://doi.org/10.1038/s42004-021-00545-8)
<共同研究メンバー>
薬食生命科学総合学府食品栄養科学専攻博士後期課程 本山智晴特別研究員、宮田椋特別研究員、食品栄養科学部 中野祥吾准教授、長谷部文人助教(現在: 福井県立大学)、熊澤茂則教授、三好規之准教授、伊藤創平准教授
お問い合わせ
食品栄養科学部 伊藤 創平
電話:054-264-5576
E-mail:itosohei@u-shizuoka-ken.ac.jp
電話:054-264-5576
E-mail:itosohei@u-shizuoka-ken.ac.jp
(2021年7月19日)